スポーツ技術とスポーツ工学の動的分野においては、技術者は用具に貯えられたエネルギーと用具から失われたエネルギーにとくに注目します。膨張可能なボール(および中の詰まったボール)は、多くの場合、ボールと剛体板との相互作用を説明する回復係数によって支配されます。正しい動的特性は、材料、構造および膨張圧力の注意深い選択により実現されます。工場からボールが出荷された後、材料と構造は比較的安定していますが、内圧は、推奨値を単に知っているだけの運動選手が好きなようにコントロールします。さまざまな変形レベルで過剰に高いあるいは低い圧力とエネルギー損失との関係を観察するため、調査を実施しました。
ボールを圧縮するため、軽量圧縮プラテンを取り付けたElectroPuls™ E3000を使用しました。この調査では、多数のさまざまなスポーツ用ボールの試験を行いました(フットボール、バレーボール、フットサル、ネットボール、バスケットボール、新体操)。ここでは、バスケットボールの結果を紹介します。初期変位の平均レベルを中心にして、一定の周波数で振幅の大きさを5 mmとして周期的にボールを圧縮しました。その後5 mmピッチでこの初期変位を増加させました。この動きは、WaveMatrix™動的試験ソフトウェアとデジタルエンコーダーを用いて指示しました。ボールは下記の3種類の圧力レベルで試験を行いました。
- ボールに規定された圧力の中間における公称圧力
- 公称圧力より25%低い圧力
- 公称圧力より25%高い圧力
力―変位曲線は、各初期変位における最終サイクル(20回目)のものを使用しました。荷重曲線と除荷曲線をそれぞれ数値積分して得られたエネルギーの差から、各圧縮サイクルにおいて失われたエネルギーを求めました。これを用いて、さまざまなサイクルにおける試験対象システムに持ち込まれたエネルギーに対する失われたエネルギーの割合を示す棒グラフが得られました。この棒グラフが高いほど、相対エネルギー損失が大きいことが分かります。緑色の棒グラフで示した適切に膨張させたボールは、試験を行った3種類の圧力の中でエネルギー損失がもっとも少ない結果となりました。低い圧力のボールにおける高いエネルギー損失は、ボールの表皮の曲げと球面内の変形(フープひずみ)の相互作用に起因している可能性があります。一方高い圧力では、ボールは本質的に予荷重がかけられた状態となり、ボールの表皮は大きいひずみを受けることとなり、弾性領域から外れる可能性があります。ハイパー弾性材料を用いると、大きなひずみによりさらにエネルギーが失われるのは当然です。このような完全ボール動的圧縮試験により、スポーツ用ボールにおける内圧の役割を理解することができました。このような簡単な調査によって、ボールの挙動全体を定量化するのに役立ち、今後の研究の新しい分野のきっかけが得られます。